家に帰る途中、敵機に襲われる(絵:張山喜隆)

家に帰る途中、敵機に襲われる(絵:張山喜隆)

空襲の夜の夜勤が明け、家路に就こうと思ったが、果たして実家は残っているのだろうかと不安になった。でもここに居ても危ないし、とにかく実家のある野内村に帰ろうと思い、焼野原の外に出ると、同僚のセツさんが慌てて後を追って来て、「私帰る所が無いから、テルさん、一緒に行ってもいい。」と聞いて来た。もちろん一人よりは心強いので了解をし、二人で線路沿いに村の方へ歩き出した。

街中はいたる所でまだ燻っているし、哀れな遺体がまだ何体も横たわっているので、遠廻りでも線路沿いの方が確かだと思った。浦町駅までは臭くて熱くて大変だったが、浪打駅を過ぎた辺りから、人家もまだ残っていて、何かほっとした感じがした。

そこから少し行くと、辺り一面の水田と種鶏場横の唐松林が見えた。その時突然、自分達の周りの線路の敷石が、ガツガツと音をたてて前の方に飛び敷った。何だろうと思っていると、自分かちの頭上を背後から音も無く敵の飛行機が飛び去り追い抜き、又反転をして自分達に機関砲を撃って来た光が両翼に見えた。又自分達の横をギュンギュンと弾が通り過ぎる音がしたので、セツさんと手を取り合って林の中の草むらに飛び込んだ。又飛行機は旋回をして私達を探して飛び去るうとしないで上空にいたので、声を出したら殺されると思い草を抜って息をひそめていた。(聞き書き:張山喜隆)