私は大町で金持ちのお嬢さんで育ちました。青森空襲の前に、爆弾を落とすとビラがまかれたんですよ。父は私達に山に逃げろと言ったんですが、わがままな私は言う事を聞かないで、その目も振り袖を着て過ごしていたんですよ。
そうしたら空襲警報のサイレンが聞こえたかと恩ったら、大きな爆音と共に、もう家の庭や屋根に焼夷弾が火の付いたまま落ちて来たんですよ。父や奉公人達はそれに水を掛けたりして走り回っていたのですが、父は私の世話係の女中をつかまえて、「娘を連れてお前の実家に逃げろ。」と言って私をその人に押し付けました。
その女中は「はい。」と言って私の腕を掴むと、火の手が上がっている町の中ヘ走り出しました。私は履いていた草履は脱げるし、疲れたので、「もう嫌、家に帰る。」と言うと、その女中は私の顔や頭をゴンゴン殴り、「死にたいのか。廻りを見なさい。火の中なんだよ。」と言うと、振り袖を私の頭に被せると、腰に腕を回して私を持ち上げた。そして「ぎやー」と悲鳴にも似た声を出して走り続けた。
熱い熱気と人々の叫び声を聞きながら私は気絶をしたらしく、気が付いたのは田舎道の草の上だった。そこから見えたのは赤々と燃える青森の町と、焼夷弾の落ちる花火の様な光景だった。そこから手を引かれて高田の女中の実家に着いたのは、真っ暗な夜中だった。次の日、父達もそこに来ました。(聞き書き:張山喜隆)
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