県内の農家では近年まで旧暦で正月を行い、一月一日からの大正月、一五日からの小正月、そして二月一日のサントシ(サンショウガツなどともいう)という三回の正月を祝ったものだといいます。この中でも小正月にはもっとも多くの儀礼が行われてきましたが、その中でも農耕にかかわる豊作祈願や占いが濃厚にみられます。
写真はいずれも昭和五〇(1975)年に撮影された下北地方の小正月風景です。写真上は餅つき踊りといい、小正月に集落の婦人会員たちが各家を訪れて踊るものです。この踊りは豊作を祈って行われるため田植餅つき踊りともいいます。下北地方全域でみられますが、特に東通村では盛んで「東通のもちつき踊」として県の無形民俗文化財に指定されています。華やかな衣装の四人の踊り手が小さな杵を持ち、真中に置いた小さな臼のまわりをはやしに合わせて踊ります。このほか、写真下のように余興として手踊りも披露されます。
この写真をよくみると、踊っている背後の神棚の両脇にはマユダマ(メダマ・ハナモチなどともいう)らしきものが写っています。ヤナギやミズキの枝に餅をつけたもので、これも豊作祈願のため小正月につくって飾るのが農家の習わしでした。餅つき踊りは現在もなお続いていますが、マユダマをつくることはほとんどみられなくなってしまいました。(民俗研究家・成田 敏/写真はいずれも、写真家野坂千之助氏)
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