袰月海岸に泳いで来た、油まみれの兵隊たち(絵:張山喜隆)

袰月海岸に泳いで来た、油まみれの兵隊たち(絵:張山喜隆)

私は昭和8年生まれだから、昭和20年の戦争の時は小学校の上級生でした。その当時北海道が見える津軽半島先端近くの袰月にいましたので、毎日海を見て生活していました。

夏だったと思いますが、ある日沖を行く船が小さい飛行機に爆弾を落とされて沈んだんですよ。部落の人達が海岸に出て、「あれあれ、どうしましょう」と走り回っていたけど、小さい飛行機が機関銃を撃って来るので船も出せないでいると、突然海の中から真っ黒に油をかぶった男が現れてびっくりしましたよ。良く海に目を凝らして見たら、燃料の油が海に流れ出して海が真っ黒になり、その中を兵隊たちが泳いでこの海岸を目指しているのが見え、皆で砂浜まで走って行って兵隊を助けましたよ。全部で20人ぐらいはいたと思うけど、中には怪我をして血を流している人もいて、それに油まみれだから大変だったんですよ。砂でこすったり藁で拭いたりして何とか取ったみたいだけど、涙ボロボロ流して泣いている人もいたし、海に向かって号令をかけて名前を呼んでいる人もいたし、これが戦争なんだろうなと思って見ているしかなった。

後で部落の人達がご飯を炊いて食べさせたようだけど、どうなったのかは子供だったから良くわからないけど、海の中から真っ黒な兵隊が何人も砂浜に上がって来たのは、今でもはっきりと覚えていますよ。のどかな所だったんだけど、急に戦争がおっかない物だと思いましたよ。(聞き書き:張山喜隆:平成29年2月10日)