●「生きる」相良倫子(7分40秒)
●「鄙ぶりの唄」茨木のり子(1分56秒)
●「I was born」吉野弘(4分29秒)
●「雪の日に」吉野弘(1分24秒)
小包みの紐の結び目をほぐしながら
おもってみる
― 結ぶときより、ほぐすとき
すこしの辛抱が要るようだと
人と人との愛欲の
日々に連ねる熱い結び目も
冷めてからあと、ほぐさねばならないとき
多くのつらい時を費やすように
紐であれ、愛欲であれ、結ぶときは
「結ぶ」とも気づかぬのではないか
ほぐすときになって、はじめて
結んだことに気付くのではないか
だから、別れる二人は、それぞれに
記憶の中の、入りくんだ縺れに手を当て
結び目のどれもが思いのほか固いのを
涙もなしに、なつかしむのではないか
互いのきづなを
あとで断つことになろうなどとは
万に一つも考えていなかった日の幸福の結び目
― その確かな証拠を見つけでもしたように
小包みの紐の結び目って
どうしてこうも固いんだろう、などと
呟きながらほぐした日もあったのを
寒々と、思い出したりして
●「奈々子に」吉野弘(1分58秒)
生命は
自分自身だけでは完結できないように
つくられているらしい
花も
めしべとおしべが揃っているだけでは
不充分で
虫や風が訪れて
めしべとおしべを仲立ちする
生命は
その中に欠如を抱いだき
それを他者から満たしてもらうのだ
世界は多分
他者の総和
互いに
欠如を満たすなどとは
知りもせず
知らされもせず
ばらまかれている者同士
無関心でいられる間柄
ときに
うとましく思うことさえも許されている間柄
そのように
世界がゆるやかに構成されているのは
なぜ?
花が咲いている
すぐ近くまで
虻の姿をした他者が
光をまとって飛んできている
私も あるとき
誰かのための虻だったろう
あなたも あるとき
私のための風だったかもしれない
●「祝婚歌」吉野弘(1分51秒)
●吉野弘「夕焼け」(2分33秒)
昭和20年3月の東京空襲に関係した朗読です。「その女性は、勤め先で8歳年下の男性と知り合い結婚。2年後、女性が31歳の時、女の子が産まれました。待望の子どもでした。でもあるできごとがあり、夫も女の子も、女性のもとからいなくなります。女の子の名前は早苗と言いました。写真は1枚も残っていません。」(NHKより)